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檸檬

檸檬より薄い黄色で、一まわりも二まわりも大きく、表面が瘤のような凸凹のある柑橘類をシトラス(シトロン)という。「リボンシトロン」という飲み物の名前にあるやつだ。古代ギリシア時代にも知られていたもので、食用のほかに、その皮を袋で包み衣類と衣類の隙間入れ防虫剤・芳香剤がわりにしていたようである。

シトロンは遊学中のイタリアで知ったが、かの地では檸檬のほうがはるかに用途が多い。
サレルノの駅からバスでソレント半島を周遊し、アマルフィまで行ったことがある。丁度季節は秋で、日が傾き始めた弱い光の中で、海が輝き、くねる道の揺れに身をゆだねてバスの外を眺めていた。
日はすっかり落ち、ソレントの街灯の下で今日の旅の疲れが身をもたげる。
簡単な夕食の後、帰りの電車を待つ間に、バールでレモンチェッロを味わった。
昔、「マウンテンデュー」という檸檬色の飲み物があったが、それと瓜二つの色をした少しとろみのあるリキュールである。

檸檬で思い出すのが、レオナルド・ダ・ヴィンチの故郷、ヴィンチ村の料理である。
夕方の村を散策して、レオナルドの生家から、煌々と輝く月の光の中、オリーヴの枝をよけて身をかがめながら歩いた夜行をした後、ホテルのレストランで檸檬のパスタを食べた。ラーメンのような卵の黄身の色ではなく、鮮やかな檸檬色のパスタは、檸檬ソースとともに口に含むと、鼻を爽やかな檸檬の空気が通っていった。

ソレントとヴィンチ村で出会った檸檬の爽やかさとは逆に、苦味のある檸檬の思い出がある。
ポンペイの研究所で再会した日本人女性の研究者が、イタリア人の先生から食事の招待を受け、私も誘われた。私は、近郊の古代ギリシア遺跡を散策して、約束の時間に遅れてしまった。運悪く、彼女は風邪をひき、機嫌が悪かった。私が彼女の容態を無視して散策に行った形になってしまった。先生宅を去るときに、先生の奥様から小さな小瓶のレモンチェッロをいただいた。研究所に着くや否や、彼女は私の態度をひどく叱責した。この時ほど、研究者としてその道の険しさを知ったことはなかった。

研究所を去り、ローマのホテルに到着したころは、日付がかわっていた。呼び鈴を鳴らすと、青年が出てきた。「君にお土産だ」と黄色の小瓶を渡した。「これだけ?」と不満げに言ってキーを渡して奥に引っ込んだ。私はこの小瓶を疎ましく思っていた。もう、どうにでもなれ・・・。

檸檬は爽やかさだけではない。涙の味がしょっぱいのと似て、味だって変わるのである。
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「毒蛇は急がない」

Bayartai!

野人

by yajingayuku | 2014-08-03 21:11 | 木陰のランプ