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イタリア紀行(34)

ある休日、皆で何処か行こうということになった。カプアに行ってみたいと切り出すと、一同賛成で出発することになった。先導役はもちろんチンツィアである。車で1時間ほどするとカプアの郊外に着く。

カプアはいわずと知れたエトルスキの町である。サンタ・マリア・カプア・ヴェーテレという旧市街地はその昔、エトルスキの拠点であった。南のエトルリアと呼ばれたこのカンパーニアで一番栄えていたようである。紀元前5世紀山岳部からイタリキ部族がこの町を強奪し、エトルスキが駆逐されるまで、カプアの繁栄は羨望の的だったらしい。

一行は考古学博物館を見学することになった。私が論文で取り扱った陶器が幾つも所蔵されていた。これには一入の感慨がこみ上げてくる。チンツィアも先生達も関係者とは顔なじみのようで、存分に写真をお撮りくださいとのこと、一同カメラを手に盛んにシャッターを切る。展示品は、先史時代からローマ時代までの遺物で、この地が絶えず人の居住したところであることを示していた。

博物館から出て、街中に入ると、チンツィアがどうしても見て欲しい場所があるというので、住宅街の小さな建物の地下へ連れて行かれた。何とここは、キリスト教がなければ恐らく世界的な宗教となったであろうと言われる、ミトラ教の礼拝堂である。祭壇中央には、牛の首を切らんとするお馴染みの絵があった。天蓋部には星が描かれ、古代の証左としては珍しい宇宙観が展開されている。こうしたミトラ教の聖所は後世にキリスト教の聖域となることが多い。ローマ市内にもいくつか残っている。新鮮かつ貴重な経験であった。

遅い昼をレストランでとった。前菜に是非とも食べたかった、カプア産のモッツァレッラチーズを注文した。これは恐らく生涯忘れられないチーズの味である。兎に角舌に馴染んで滑らかである。パサツキが全くない。メインは、カンパーニアなのに、またまたミラノ風カツレツを食べた。ボリューム味とも大満足であった。

レストランの近くに、それはあった。コロッセオである。この建物は、ローマのものに次いでイタリアで2番目に大きなものである。入り口の片隅には、剣闘士の墓石が立っている。そう言えば、スパルタクスはここの出身だったことを思い出す。反乱は、ここからはじまったのである。映画、「スパルタカス」の話を思い出すと同時に、ビル・エヴァンスの愛のテーマが頭の中で鳴りだした。建物の地下部分には幾つもの部屋と恐らくエレベーターのように地表にせり出したであろう舞台の部屋も確認できた。チンツィアの説明も熱を帯びる。残念なことに、ここの写真は一枚も残っていない。フィルムがきれてしまったのである。迫力あるその姿が残せなかったのは返す返す残念なことだ。
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帰りの国道を走っていると、夕闇の中に、幾つかの霊廟跡が建っているのが見える。帰りは何故か物悲しい雰囲気だった。今度はいつこれるだろうか・・・。

野人
by yajingayuku | 2009-09-02 01:02 |