うたたね

けたたましいエンジン音を立てて、一艘の船がアマゾン川を遡上する。ふと気づいて、景色を見返すが、何時間たっても遥か彼方にはジャングルの水平線が見えるだけである。
真夏の灼熱の太陽を避けて、両壁のない船室に入る。
そこにはベッド代わりに、まるで繭玉のようにハンモックが吊らされている。

皺だらけのまだ30歳という、老婆のようなおかみさんさが赤ちゃんに乳を与えつつ、その上でくつろいでいる。
河からの涼しい風が彼女の足辺りを撫でている。

ひとりの小太りの中年の東洋人が、つばの短い涼しげな麦藁帽を目の辺りまで隠して被り、口にはタンカードのパイプを咥えて、腹には読みかけの本を開いて伏せたままのせて、彼女と同じように、体をすぼめたようにして横たわっている。
アマゾネスの涼やかでまろやかなそよ風が彼の足の裏をくすぐり、時々指をチョコチョコ動かしているのが見える。

彼は、夢現でエンジン音を聞いている。この世なのか?あの世なのか?

懈怠とも言えず、恍惚ともいえない、ぬるま湯に浸る感覚は、日本の真夏の窓際で、夕陽の中でウオッカをやっている時に、彼が記憶の中から呼び覚ますことのできる懐かしさとなる。

彼の味わう弛緩は、音楽でも訪れた。
ネットで買った、ヒーリング・コレクション「癒」のCDは、肩の辺りに浮遊感をもたらした。
二胡の響きを聴いて、日本の三味線、中央アジアやギリシア、アラブの弦楽器の響きを想像できるだろうか?
彼にはできた。
東西の弦楽器の響きは、聴き比べると、地球を一周するような一大絵巻のように感じられた。

世界をめぐると、異なった、目、鼻、舌、耳を備えたようになる。
ところが、笑顔ときたら、また泣き顔ときたら、これはそれぞれ同じ皺があるのである。
彼は、この皺を求めて歩いていたのかもしれない。

旅人の見る人には顔があった。あの顔、この顔、はたまたこの顔・・・・・・。

また、ビール一杯で、イマージュを見てしまった。弛緩のイマージュを・・・・・・。
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「毒蛇は急がない」

Bayartai!

野人


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by yajingayuku | 2014-11-12 19:18 | 木陰のランプ