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蔵人

半月に雲がかかり、時折月が雲の中に隠れる。
メンデルスゾーン最晩年の弦楽四重奏曲を聴いている。
月に相対し、激しい旋律を聴くと、月下独酌の風情が何処かに飛んでいってしまいそうである。

今回は月と一杯というわけにはいかないが、酒の話ならある。
それも酒を造るというもの・・・。

奄美大島の隣の小さな島、喜界島は人口1万人に達しない南の島である。
島には最近出来たという信号機がひとつあり、白ゴマ、黒糖、焼酎が知られている。
冬の玄関先、12月に訪れたときにはまだススキの穂がそこかしこに見られ、秋の風情であった。

島に2つある焼酎の酒蔵で、磯辺に臨んで建っているのは喜界島酒造の酒蔵である。
ここで私は短期間、主に麹・もろみを造る仕事をしていた。
大きな円柱のタンクローラーを横にしたような機械に米を入れ、米を浸漬、蒸して、種付けを施し、米麹を作る。100度近い高温で蒸すのだから、室内はサウナ状態である。機械タンクの洗浄などをすると確実に1ヶ月で5キロはダイエットできる。

米麹、水、塩を入れてもろみを造る過程で、私は不覚にも眼鏡をもろみタンクの中に落としてしまった。眼鏡を酒の赤ちゃんから救出するのは容易ではなく、ひとりでもろみを混ぜる櫂で焦って探すのであった。見つかった眼鏡はドロドロで、在りし日のいかした眼鏡の面影はなかった。

黒糖を加えられ、何日かタンクの中でもろみは眠り、蒸留器で蒸留されて透明の液体になる。この最初の蒸留した液体を「はなたれ」という。まだ油抜きもせず、加水もしない、ヴァージンだ。「これを一杯やってごらんなさい」。そういわれて、のどに通すと、強烈なパンチとともに黒糖の香りが尻を持ち上げてくる。う~ん、こんな男酒は飲んだことなどなかったぞ、と感嘆するのである。この味見は、蔵人の特権である。

黒糖焼酎の生産は法律に守られ、奄美地方だけでその生産が許可されている特別な酒である。
戦後の奄美地方経済振興政策の一環として出来たものである。

難しいことは言いません。一度、試しに飲んでみてください。香りが素晴らしいですよ。
何なら、私の住むアパートの下の焼き鳥屋さん、「松尾」さんにも、喜界島産の朝日酒造「朝日」が置いてありますので、お試しあれ!

話は尽きませんので、今夜はこの辺で・・・。
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「毒蛇は急がない」

Bayartai!

野人

by yajingayuku | 2014-08-04 20:59 | 木陰のランプ